龍を封じた池が今も残る、日本最初の厄除け霊場~岡寺

伝説をたずねて
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岡寺、その名のとおり飛鳥の丘にあるお寺です。

とっても素敵なお寺さんなのですが、お寺に至るまでの坂道がかなりキツいので、なかなか足が向かなかったりするのですが(なんと25年ぶりの再訪でした)、西国三十三所観音霊場の第七番札所になっているため訪れることになり、この機会に岡寺の中をゆっくり散策してみました。

龍蓋池

現在ではその地名や立地から『岡寺』と呼ばれていますが、創建当初は『龍蓋寺』(りゅうがいじ)といいました。
この『龍蓋寺』という名は、飛鳥の地を荒らしまくり民を苦しめていた悪『龍』を、義淵僧正が法力で池の中に封じ込め、大きな石で『蓋』をし改心をさせたことからつけられたそうです。
『龍に蓋をする→龍蓋寺』というわけです。
壮大な伝説から付けられた寺名だったのですね。

しかし、現地に立ってみるとなんといいますか、龍を封じるにしては小さい池だなぁというのが正直な感想。
大きな石で蓋をした…ということですが、石が思ったほど大きくないなぁとか池が思ったより深くないなぁ(というか浅い)とか色々思うわけです。

『飛鳥の地を荒らしまくり民を苦しめていた悪竜』ということですが、なぜそんな事をしたのかな、その理由は?とか謎はつきません。
龍を生物と考えるとそんな疑問も湧き上がってくるわけですが、龍の象徴といえばやはり水。
『荒らし→嵐』などと連想すると、暴風雨で土砂崩れがあったり洪水になったりして困っていたところ、義淵僧正が法力で暴風雨を鎮めたということがあったのかもしれませんね。
そのあと封じられた龍は改心していい龍になり、それから以後は、池の蓋(龍の封印か)になっている要石を触ると雨を降らせてくれるようになったとか。
その逸話から『龍蓋池』の前で雨乞いの法要が行われたこともあったそうです。

ちなみに、その龍は今でもこの池底に眠るといわれています。

悪竜祓いの逸話がいつしか厄除け信仰へ

現在では日本屈指の厄除け霊場の一つとして知られる岡寺。

西国三十三所観音巡礼がはじまる前から観音霊場として知られていましたが、平安時代に密教が普及したことにより貴族の間で厄除けをするようになり、鎌倉時代には「初午の日に必ず岡寺に参詣した」という記述が『水鏡』に残されています。

暦が流布した江戸時代になると庶民の間でも厄除けが盛んになり、そのような流れの中、悪龍祓いの逸話は、『厄介者払い』『災いを取り除く』という信仰に発展していき、元々あった観音信仰に厄除け信仰が加わり、日本最初の厄除け観音と言われるようになりました。

さきの水鏡の記述にもあったように、今でも初午の日に厄除けするのが良いとされています。
その理由は、観音様がこの世で仏法を説いたときに馬に乗って現れたとされていて、馬との関わりが深いから。
そのため、午の日に観音様で厄祓いをすると良いといわれているそうです。

観音様の申し子

悪龍封じのお話が伝わる岡寺ですが、その悪龍を封じた岡寺の開祖・義淵僧正にも不思議なお話が伝わっています。

大和国高市郡に子どもに恵まれない夫婦がいました。
そのため、彼らは日々観音様に子どもが授かるようお祈りしていました。
そんなある夜のこと。
家の外から、突然子供の泣き声が聞こえてきます。
驚いた夫婦が表に出てみますと、柴垣の上に白い布に包まれた赤ちゃんがいるではありませんか。
周りに人の気配はありません。
とりあえず保護して連れ帰ると、家の中はたちまち馥郁たる香りに包まれました。
その後、この夫婦はその子どもを大事に育てていましたが、その噂を聞いた天智天皇は「これは観音様の申し子に違いない」と、この子供を引き取り、岡の宮で草壁皇子と共に育てました。

この子どもこそ後の義淵僧正その人である‼︎というのが出生にまつわる言い伝えです。

岡寺が草壁皇子の住んでいた岡の宮跡に建てられたのは知っていましたが、一緒に育った人が岡寺を建てたのは今回初めて知りました。

ちなみに…
岡寺は義淵僧正が国家安泰を祈願して、ある皇子の宮跡に建立したとされるが、その皇子は誰か…
という問題が奈良まほろばソムリエ検定で出題されています。

義淵僧正のその後

出家した後は、元興寺で智鳳(ちほう)(新羅から来日した僧)に教えを受け、大宝3年(703)日本で最初の僧正になり、仏教界の最高責任者となりました。

門下には良弁、行基、玄昉、宣教、隆尊、道鏡など奈良時代の高僧と言われる人は皆、義淵僧正の教えを受けたといわれています。

元正・聖武天皇の代には宮中の内道場に供奉しました。

お墓は、岡寺の奥之院にある宝篋印塔(延文5年(1360)銘)が義淵僧正の廟塔と伝えられています。

本尊はとっても珍しい姿の如意輪観音

如意輪観音といえば、六本の手で、片膝を立ててもの思いに耽っているような姿が思い浮かびますが、岡寺の本尊は二本の手で、右手は施無畏(せむい)、左手は与願(よがん)の印を結んで、結跏跌坐(けっかふざ)をする姿をしています。
しかし台座部の調査結果から、当初は左足を踏み下げて座る半跏像であったのではないかと推測されています。
二本の手の如意輪観音像はとても少なく、西国三十三所観音霊場でも七番岡寺と十三番石山寺の本尊しかない、とっても珍しい姿の如意輪観音とされています。

現在の本尊は弘法大師が日本・中国・インド三国の土を材料として造り、それまで本尊とされてきた金銅如意輪観世音菩薩半跏思惟像(国重要文化財)を胎内に納めて新しい本尊としたそうです。

塑像(土でできた仏像)としては日本最大の仏様(像高4.58m)で、日本三大仏にも挙げられており、国の重要文化財に指定されています。

 ちなみに日本三大仏とは、
『銅像』の東大寺 盧舎那仏(奈良の大仏)
『木造』の長谷寺御本尊 十一面観音菩薩
『塑像』の岡寺御本尊 如意輪観音菩薩
と、古来より言われています。

瑠璃井

苔むしすぎててわかりずらいですが『るり井』って彫ってあります。

江戸時代の『大和名所図会』にも載っている弘法大師の厄除の井戸。
その昔、弘法大師が龍神(義淵僧正が封じられたのとは別の龍?)に祈ったところ、みるみる綺麗な水が湧き出してあふれかえり、その水を呑んだ人は不幸や災難から逃れることができたそうです。

現在は残念ながら呑むことはできませんが、汲むことはできるようです。

寺紋からわかるお寺の歴史や教え

現在は真言宗豊山派の岡寺ですが、創建当初〜江戸時代までは開山の義淵僧正が法相宗をはじめた人だったので、法相宗興福寺の末寺でした。
そのため、別当(住職)は興福寺から選ばれていました。
時代がくだり、室町時代になると興福寺別当が岡寺別当を兼ねていました。

江戸時代になると長谷寺第三十二代化主(住職)法住が岡寺に入って中興第一世となってからは、長谷寺の末寺になり今日に至っています。
途中で荒廃していた時期があり、その後に真言宗になったようですね。

そのような流れから岡寺の寺紋は
興福寺とのつながりを思わせる上がり藤紋と
長谷寺の輪違い紋
となっているようです。

仁王門

慶長17年建立の国の重要文化財。

奈良にありがちなんですが、国宝とか国の重要文化財の建物がしれっと建っているんですよね…

そんなわけでなんとスルーしてしまいました。

正面両脇に仁王像が安置されているらしいです←見てない

そして四隅上にはそれぞれ阿獅子・吽獅子・龍・虎の意匠がほどこされていてとてもめずらしい形態をしているそうです←これも見てない

三重宝塔の琴

三重宝塔はもともと旧境内地(現治田神社境内)に建っていましたが、文明4年(1472)7月21日の大風で倒壊してしまいました。

翌年から再建するための勧進が進められましたが、完成を見ることなく、解体されて部材は今の仁王門や楼門に転用されることになりました。

その後も復興されることなく長い月日が経ちますが、昭和59年(1984)の弘法大師千百五十年御遠忌を契機に復興に着手、昭和61年(1986)に514年ぶりに再建されました。

この塔、よく見ると軒先に琴が吊るされています。

これは塔をより美しく厳かに飾るもののひとつで全国的に例はないめずらしいものなんだそう。

確かに他では見たことがありません。

塔の中は普段は見られませんが、毎年10月第3日曜日の開山忌に公開され、扉絵や壁画で美しく飾られた内部を見ることができるそうです。

今回の岡寺散策はここまで。
見落としたポイントも一、二あるので機会があればまた訪れたいと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。

以下、参考にさせていただきました。

  • ひとり歩きの奈良
  • 奈良県の歴史散歩(下)
  • 奈良まほろばソムリエ検定公式テキストブック
  • 岡寺のパンフレット
  • 境内の案内板
  • 岡寺の公式ホームページ

DATA

岡寺

所在地奈良県高市郡明日香村岡806
拝観時間8:30~17:00 (12月~2月 8:30~16:30)
拝観料400円(一般・大学生以上)
駐車場無料駐車場あり。
※ただしすごい坂道&細い道の為、運転に自信のない方は近くの民間駐車場に駐めるのが無難だと思います。
アクセス近鉄 橿原神宮前駅
近鉄 橿原神宮前駅 東口より奈良交通バス「岡寺前」下車、徒歩約10分。
または橿原神宮前駅よりタクシー。
本堂内陣の一般内拝期間毎年4月~12月
*1月~3月の間は随時厄除法要勤修のため一般の方の内拝はできません。
*4月~12月の間であっても法要や行事などの為に一般の内拝ができないことがあるそうです。

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